TOO OLD TO DIE YOUNG -レフンの描く終末論-

映画紹介

Too Old To Die Young

ジャンル:犯罪ドラマ スリラー

リリース日:2019年6月14日

監督:ニコラス・ウィンディング・レフン

脚本:ニコラス・ウィンディング・レフン
エド・ブルベイカー

主演
マイルズテラー
アウグストアギレラ
クリスティーナ・ロッド
ネル・タイガー・フリー
ジョンホーク​​ス

作曲者:クリフマルチネス

製作国:アメリカ

言語:英語

シーズン数:1
エピソード数:10

引用元:Wikipedia

悲劇が起きたある夜、ロサンゼルス郡保安局の巡査マーティン・ジョーンズのこれまでの人生は吹き飛び、カルテルやヤクザ、謎の自警団といった地下組織と関わることとなる。 やがて彼自身も殺人や神秘主義、復讐という現実離れした世界に引き込まれていく中、過去に犯した罪が彼に迫りつつあった。

引用元:Amazon Prime Video

予告編

“いい映画に必要なのは、少しの涙と少しの笑い、そして大量のセックスとバイオレンスだ。”

―ニコラス・ウィンディング・レフン―

 
デンマークの鬼才ニコラス・ウィンディング・レフン監督によるAmazonスタジオ製作のドラマシリーズ『Too Old To Die Young』が6月14日遂にAmazonプライム・ビデオにて配信された。レフン監督はこれまで、『オンリーゴッド』や『ネオンデーモン』といった、ビビッドでアヴァンギャルドな作品を多く送り出してきた。そして今回、レフン監督は初めてテレビドラマの製作を行った。全10話すべてレフンがメガホンを握り、脚本もすべて彼とエド・ブルベイカーが書いているという気合いの入りっぷりに否が応でも期待させられる。
 
出典:imdb.com
 
出来上がった作品は1話約90分、各話明確なクリフハンガーもなく、まさに「13時間の映画」と呼ぶにふさわしいものだった。
 
レフン監督作品は非常にユニークだ。無駄をそぎ落とし、極端に省略されたスローテンポな会話、完璧にカラーコーディネートされた美しい構図で織りなす画面設計、そして突発的で強烈なバイオレンス描写によって彼独自の世界を作り上げる。彼は常に裏社会を舞台にした物語を描き続けてきたが、そのオリジナリティ溢れる世界観によって、現実離れしたファンタジックな暗黒世界へと我々を誘う。
 
 
本作ではストリーミングドラマという選択肢を取ったことで、2時間映画にあった様々な制約から解放された。それによってこれまでの作品と比べ、よりレフン監督らしさが色濃く反映さたものになっている。ネオンカラーで美しく彩られた映像の中で、陰惨な暴力が支配するシュールな物語が展開していく。本作は今まで以上にバイオレンス描写が凄まじい。これまでのレフン監督作品の多くがR15+指定となっていたが、今回初めてR18+指定を受けている。
 
出典:本編より
 
 
作品は、主人公マーティンとその相棒ラリーが、不倫相手の殺害計画について話しているところから始まる。彼らは汚職警官で、日々その公権力を盾にケチな悪事を働いていた。しかし過去の事件でメキシコ麻薬カルテルから恨みを買っていた彼らは、カルテルの幹部であるヘススから命を狙われ、ラリーが撃ち殺されてしまう。
 
そこでかつてから繋がりのあるギャングのボス、ダミアンの元へそのことを報告に行くが、ダミアンから怒りを買い、それとは別件の殺しを強要される。
 
組織から脅されたマーティンはやむなく殺しを実行するが、次第に暴力に快楽を見出し、血に飢えるようになる。
 
出典:本編より
 
そんな中、小児性愛者など法が裁けない極悪人を影で処刑するビジランテである”片目の男”ヴィゴと出会い、お互い共鳴し合うことで、闇討ち稼業に身を投じていくことになっていく・・・
 
 
出典:本編より
 
 
主演を演じたマイルズ・テラーの変貌ぶりには驚かされた。『セッション』ではまだあどけなさの残る青年を好演していたが、今回のマイルズは銅像のように無表情かつ、冷酷で危険な雰囲気を纏ったレフン映画の顔になっていた。最初マイルズが主演だと発表された時は、レフンの描くハードボイルドな世界でちゃんと存在感を発揮できるのか不安を覚えたが、無駄な心配だった。今作で非常に印象的な怪演をみせた彼の今後のキャリアにもぜひ注目していきたい。
 
出典:本編より
 
麻薬カルテルの幹部、ヘススも非常に魅力的なキャラクターである。見た目はヤンキーそのものでかなりイカツイ。レフンの描くこういったヤンキールックのキャラクターは毎回スタイリッシュで魅力的だ。彼は自分の死んだ母親マグダレーナのことが忘れられずに苦しんでいる。最初は、母への強い愛情をもった家族思いの男のように見えるが、次第にその愛情の深さが異常だということが明かされていく・・・
このキャラクターは『オンリーゴッド』のライアン・ゴズリングが演じたジュリアンを思い出した人も少なくないだろう。ヘススもジュリアンと同じく、眉毛にかっちょいいラインを入れている。
 
出典:本編より
 
そしてそのヘススと同じカルテルに所属している謎の女ヤリッツァ。
彼女がとにかく美しくて、かっこいい。
後半彼女の見せ場に注目。
 
 
ストーリーライン自体はよくある任侠者、クライムサスペンス物のようでありふれたテーマを扱った作品のように最初は思えるかもしれない。しかし一筋縄ではいかないのがレフン作品なのである。
 
出典:本編より
 
本作はレフン監督独自のユーモアも踏んだんに盛り込まれており、飽きさせない。デヴィッド・リンチの作品のように不可解な出来事や人物がたくさん登場し、サイケデリックな映像と相まってクラクラさせられる。特にマーティンの働くロサンゼルス市警のメンバーは異常に頭の悪い変人しか出てこない。その異常さはギャングのボス、ダミアンに「頼むからこいつらが警察じゃないと言ってくれ…」と言わしめるほど。あの警察署内はまた別の切り離された世界観をもっており、物語の中で浮き上がって見える。面白おかしいのと同時に不気味にも見えるバランスがまた面白い。
 
 
出典:本編より
 
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またレフン作品では毎回と言っていいほど、人知を超えた最強の殺人マシーンが登場する。『ドライヴ』のドライバー、『ヴァルハラライジング』のワンアイ、『オンリーゴッド』のチャン、など怪物のようなかっこよすぎる魅力的なキャラクターにワクワクさせられる。今作でもそういった殺人マシーンがしっかりと登場する。ぜひそのしびれるようなかっこよさを自身の目で確認してほしい。
 
 

そして物語は次第にそれまでの裏社会クライム物から、人間がもつ根源的な凶暴性や暴力衝動、倒錯、ビジョンなど形而上学的な様相を帯びるようになっていき、終末論的なカタストロフに向けてそれまでスローに展開していたストーリーは急激に速度を増していく。


「なぜ人間には爪や歯があるのか?」
それは元々人間自体に獣性があるからに他ならない。


人間しか持ちえない叡智によって、社会を形成し、そうした蛮性は影を潜め忘れ去られたのだ。しかし決してなくなったわけではない。


それが目覚めたとき、人類が築き上げ、我々が絶対と信じた世界は崩壊の特異点へと加速を始め、元の姿へと還っていく・・・


一種の臨界点を迎えようとしている現代社会において、こうしたレフンの鳴らす警鐘は偏執した妄想であるとむざむざと一蹴することはできないだろう。


眠れる邪悪が目覚めの時を待っているかもしれないという疑いを、人間社会で暮らす我々にレフンはあけすけもなく突きつけるのだ。

 
出典:本編より
 
今作でレフンは様々な制約から解放されたことによって彼自身のフィルモグラフィを総括するような素晴らしい世界を作り上げた。そこには、凄惨なバイオレンス、美しいカラー、そして思わず戸惑ってしまう独特なユーモアが織りなす、レフン独自の終末論的ビジョンを色鮮やかに描き出した。
 
昨今では、映画より自由にその芸術性が発揮できることから、有名監督たちがこぞってドラマ業界に参入している。コーエン兄弟の『ファーゴ』、デヴィッド・リンチの『ツインピークス ザ・リターン』、デビッド・フィンチャーの『ハウスオブカード』など数多くの注目作品が矢継ぎ早に発表されている。こうした興起するテレビドラマ界に新たなる風を吹き込み、さらに加速させていく発端となるであろう『Too Old To Die Young』は映画ファンなら間違いなく注目に値するだろう。
 
 
出典:本編より
 
本作を見た後、夜の街の中でちょっとかっこつけながら佇み、道端にペッと唾を吐きながら、裏社会で蠢くワルたちとそれを全員ぶっ殺す超現実的な殺人マシーンのロマン溢れる世界を思わず夢想してしまいそうになる。
 
あなたも彼の作品を一度でもみてしまったなら、そのあまりにも強烈な世界観に圧倒され、こういったちょっと痛々しい行動に出てしまうかもしれない。
 
それだけ魅力溢れる本作を、ぜひこの機会に楽しんでもらいたい。
 
余談だが、今作ではレフン監督の交友のある『メタルギア』シリーズでお馴染みのゲームクリエイター小島秀夫監督もカメオ出演している。日本のヤクザになりきって楽しそうに日本刀を振るう彼の姿を、ファンの方なら特に注目して見たいポイントだろう。
 
出典:本編より
 
また小島秀夫監督の11月8日発売の新作ゲーム『デスストランディング』ではレフン監督がゲームキャラクターとして出演している。こちらはCGの見た目だけで、中身は別の俳優が演じるようであるが、ファンであるならばぜひこちらも注目していきたい。
 
出典:『DEATH STRANDING (デス・ストランディング)』発売日告知 2019トレーラー – 4Kより

 

 

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