基本情報 ジャンル 戦争 / 社会派 製作国 アメリカ 製作年 2009 公開年月日 2009/11/20 上映時間 152分 製作会社 配給 東宝東和 レイティング R-15 アスペクト比 シネマ・スコープ(1:2.35) カラー/サイズ カラー/シネスコ メディアタイプ フィルム 音声 ドルビーSRD 上映フォーマット 35mm スタッフ 監督 クエンティン・タランティーノ 脚本 クエンティン・タランティーノ 製作総指揮 エリカ・スタインバーグ ロイド・フィリップ ボブ・ワインスタイン ハーベイ・ワインスタイン 製作 クエンティン・タランティーノ ローレンス・ベンダー 共同プロデューサー ヘニング・モルフェンター カール・“チャーリー”・ウォベッケン クリストファー・フィッシャー 撮影監督 ロバート・リチャードソン プロダクション・デザイン デビッド・ワスコ 編集 サリー・メンケ 衣装デザイン アンナ・B・シェパード アシスタント・プロデューサー ピラー・サボーン 視覚効果 ジョン・ダイクストラ 特殊メイク グレッグ・ニコテロ 字幕 松浦美奈 キャスト 出演 ブラッド・ピット Lt. Aldo Raine メラニー・ロラン Shosanna Dreyfus クリストフ・ヴァルツ Col. Hans Landa イーライ・ロス Sgt. Donny Donowitz ミヒャエル・ファスベンダー Lt. Archie Hicox ダイアン・クルーガー Bridget von Hammersmark ダニエル・ブリュール Fredrick Zoller ティル・シュヴァイガー Sgt. Hugo Stiglitz ギデオン・ブルクハルト Cpl. Wilhelm Wicki ジャッキー・イド Marcel B・J・ノヴァック Pfc. Smithson Utivich オマー・ドゥーム Pfc. Omar Ulmer アウグスト・ディール Major Hellstrom デニス・メノシェ Perrier LaPadite シルヴェスター・グロート Joseph Goebbels マルティン・ヴトケ Adolf Hitler マイク・マイヤーズ General Ed Fenech ジュリー・ドレフュス Francesca Mondino ロッド・テイラー Winston Churchill
引用元:(キネマ旬報映画データベース)
予告編
『イングロリアスバスターズ』における演出と脚本は、タランティーノ監督の後の作品に影響を与えるほど画期的であり、高度な物であった。それは、緊張感を重視した自然な会話シーンの演出、そしてフィクションであることを逆手に取った脚本で構成されていたからである。
出典:imdb.com
タランティーノ監督の作品の主な特徴は、過激なバイオレンス描写とスタイリッシュさが挙げられることが多いが、最も重要な特徴はその会話シーンの多さだろう。タランティーノの作品における会話シーンは、物語上あまり機能しない雑談シーンが多い。それが自然で、まるでレストランで食事をしている時、隣の席で面白い話をしている他の客の会話を思わず盗み聞きしてしまうかのような魅力に満ちている。その内容が映画作品に関することであったりするので、映画ファンはなおさら楽しめるポイントであると言えるだろう。例をあげれば、タランティーノの初監督作品である『レザボアドッグス』の冒頭でギャングがレストランに集まり、マドンナの『Like a Virgin』という曲の解釈をめぐって論争しているシーンから始まる。『デスプルーフ』でもレストランで4人の女性が70年代カーアクション映画に関する雑談をするシーンがある。
このように今までのタランティーノ作品では、「物語上あまり意味はないが魅力的な会話」が多かった。しかし『イングロリアスバスターズ』では、多くの場面で自然な会話シーンが物語上で意味をなし、非常に緊張感のあるサスペンスを作り出すことに成功している。
まずは映画の冒頭である第1章。ユダヤ人を匿うフランス人の男性とユダヤハンターであるランダが調査にやって来るシーン。フランス人の男性とその娘たちの敵対的な表情でその場に不穏な空気を漂わせている。そしてフランス人の男性が緊張を隠すため、パイプを吸う場面など、非常に自然な会話としぐさで登場人物の強い緊張が伝わってくる。初めは物腰がやわらかく、ある意味で間抜けなようにみえるランダが会話が進むにつれて徐々にその本性をみせ、フランス人の男性を追い詰めていくシーンは非常にスリリングだ。
出典:imdb.com
第3章の四年前ランダから命からがら逃げたショシャナがランダと再開するシーン。ここでの彼女の顔のこわばり、しどろもどろな口調、そしてランダが去った後の緊張の糸が切れ思わず泣き出してしまう場面は、正体がバレてしまうのではないかと言う強い恐怖感がはっきりと感じることができるようになっている。また正体に気づいてしまったかのような振る舞いをランダが一瞬見せる場面も、このシーンの緊張感を盛り上がらせた実に素晴らしい演出だった。
そして第4章。酒場でイギリス軍のヒコックス中尉が女スパイに接触する場面。中尉はドイツ語の訛りから、SS隊のドイツ兵に正体を疑われてしまう。ここでのじっくりと雑談をしながら探りをいれていくSS隊員との会話シーンは、強い緊張感をつくりだした。そして緊張が最高潮に達した時起こる銃撃戦は、極めて効果的に見せられていた。それまで積み上げてきた緊張感の高い会話サスペンスから素早いカット割りと、派手な血しぶきの飛ぶバイオレンスへ一瞬の間に移行することで、よりショッキングな描写となっている。また中尉は映画の造詣が深いという設定のキャラクターなので、『死の銀嶺』という映画の話をして、訛りのあるドイツ語の言い訳をする場面も登場する。これは、映画愛の深いタランティーノ監督ならではの演出と言える。
出典:imdb.com
こうした今までの作品でもあった自然な会話シーンを、緊張感あふれるサスペンスとして演出することによって、物語上で機能させ、タランティーノ作品を新しい次元へと引き上げたといえるのではないだろうか。
また本作のフィクションということを逆手とった脚本も高度なものであると言える。ナチスによるホロコーストは知っての通り歴史上の事実であり、ヒトラーの自殺というのも変えられない事実である。しかしフィクションの世界ならどうだろうか。歴史的に起こり得なかったユダヤ人によるナチスへの復讐、ヒトラーの暗殺が可能になってしまうのである。歴史上不可能だった出来事を映画のなかで実現させ、フィクションの映画作品でもって復讐を果たすという試みは新鮮で強いカタルシスを生んだ。そして「映画で復讐する」といったテーマを、映画作品のなかでそのまま表現しているという点も感心させられる。可燃性フィルムを爆薬代わりとして、ナチの高官を映画館の中で蒸し焼きにするのだ。文字通り「映画」で復讐をはたすのである。
出典:imdb.com
この『イングロリアスバスターズ』で確立された演出と脚本のスタイルは、後の作品でも受け継がれている。『ジャンゴ 繋がれざる者』の奴隷主であるカルビンキャンディの屋敷に、主人公たちが身分を隠して交渉に行くシーンは、緊張感が非常に強い会話劇が繰り広げられる場面であった。脚本も歴史上の事実である黒人奴隷問題に対して、黒人奴隷が復讐をはたすという点で受け継いでいる。つづく『ヘイトフルエイト』ではほぼ前編わたり物語上機能し、緊張感溢れる会話劇に演出されていた。脚本においては、作品内で登場する「リンカーンの手紙」によって前二作の「フィクションであることを逆手にとった脚本」を俯瞰してみせた。
このように『イングロリアスバスターズ』は、それまでの自然な会話シーンを物語上機能させ、緊張感のあるサスペンスに変える演出、そしてフィクションであることを逆手にとった脚本というスタイルを確立させた。これは後のタランティーノ作品を変え、進化させたという意味で、タランティーノ監督のフィルモグラフィー上で非常に重要であり、極めて高度な演出と脚本で構成された作品であったと言えるだろう。
出典:imdb.com
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